積み上げたものは揺るがない ~家族の歴史が物語る

ある日、妻がのたまいました。

「可愛いからこれを見に行きたい」と。

 

彼女が見たいと言ったのは、

闇龗(くらおう)神社に掘られた『竜の彫刻』。

長州大工をしていた私の曽祖父・門井宗吉が遺した作品です。

 

私も最近は自分のルーツを調べることにハマっていて、

ちょっとずつ祖先の残した作品を見に行っているので、

妻の希望を叶えるべく、件の彫刻がある高知県仁淀川町を訪ねることになりました。

 

とはいえ、このコロナ禍の中です。

できる限りの対策を、と、宿は中津渓谷にあるコテージの一棟貸しを、フェリーは個室をと、私にしてはかなり奮発しました。

(フェリーでの食事はスーパーの弁当だったり、お風呂は一晩諦めたり、別のところでプチ節約をしましたが……)

 

現地に着いて、そのまま真っすぐ闇龗神社を目指しました。

ナビにも出てこないようなローカルな神社なので、たどりつくまでが大変です。

間違えること一回。

気づいたら、このまま進んでしまって戻れなくなったりしないだろうか、と妻が不安になるようなあぜ道に突入しかけていました。

 

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なんとか軌道を修正して、やっと目的の神社が見えてきました。

道路脇から見える闇龗神社は、地元の人しか目に留めなさそうな佇まいをしていました。

果たして曽祖父の作品は残っているのだろうか、と不安になりましたが、社の梁(はり)に猫と鳳凰が、両の柱には妻待望の龍がしっかりと残されていました。

 

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妻曰く、

「龍の目もそうやけど、猫のいたずらっぽさとか、動物好きのうちの家族と通じるものがあるね」

とのこと。

 

たしかに、私の父も息子も可愛いものが好きで、おとぼけな性格なのですが……。

 

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私が夢中でシャッターを切っている間に、妻は裏に回って十二支の彫刻を発見していたようです。

 

「彫刻も社全体の建築もめちゃめちゃ緻密やね。お義父さんが子供たちの踏み台作ってくれたときの丁寧な仕事ぶりって先祖代々なんやね。なんかわかるわ。うちのお父さんもお爺ちゃんもそうやったし」

 

と、妻。

 

そうなんです。

実は妻の父と祖父も大工だったんです。

娘が生まれた時、階段のところに転落防止用の扉を作ってくれたのですが、その丁寧な仕事ぶりに私も驚いたものです。

 

私と妻はあまり器用な方ではないから、二人とも職人の気質は受け継げんかったんかなあ。

 

わたし自身はそう感じていたのですが、妻の方は違ったらしく、後日、会話の中で、

 

「最近気づいたけど、私って料理にかけては結構こだわるやん。丁寧とは言えんけど。やっぱり、あのこだわり方が職人の血なんやと思う」

 

こんなことを言っていました。

 

まだ気づいていないだけで、私にも長州大工のこだわりがどこかに引き継がれているのでしょうか。血眼になって探そうと思います。

 

それはさておき、あの彫刻もいつの時代まで残るのかはわかりません。

それは寂しいものではあります。

けれども、いつか消え去る日が訪れたとしても、あの仕事にかけた魂は家族には受け継がれていくと思います。

 

水泳の池江選手が見事にカムバックを果たしましたね。

白血病の治療の苦しさに加え、一度積み上げたものを再構築するための努力は気が遠くなるような道のりだったと思います。

それでも復活を果たせたのは、これまでに積み上げてきた彼女の努力の歴史があったからだと思うのです。

 

今回、家族の歴史に触れたことで、コツコツと積み上げていくことの大切さを再確認することにもなりました。

 

仁淀川ブルーの魅力については、次回のブログでご紹介させていただきます。